【特別講義 第26回】竹内先生_インタビュー記事Vol.3

今回で最後となります、竹内先生のインタビュー記事第3弾を掲載いたします。講師は前回(細胞培養 特別講義 第25回)に引き続き、東京大学 の竹内先生です。前回は、研究をスタートされた頃のお話をご紹介しました。
 

今回は、現在先生がされているご研究内容と、研究を進めるにあたっての活力を教えていただきました。先生の描く未来が実現するのがとても楽しみになりました。
最後まで楽しんでご覧ください。

(画像はイメージです)

■ 講師紹介ページ:東京大学 竹内昌治先生 
■ 第24回:竹内先生インタビュー記事Vol.1
■ 第25回:竹内先生インタビュー記事Vol.2

生物をゼロから作るには

バイオロジカルなものをゼロから作ろうと思ったら、DNAやタンパク質などから作り上げていくようなシンセティックバイオロジーのようなこともやっているんです。

「細胞を創る」研究会というものも仲間と立ち上げていて、DNAやタンパク質を細胞外で作っている研究者もいますし、私は細胞の膜を作るのが得意で、その人達の技術を膜の中に入れて細胞のようなリアクションをするようなリアクター作りとか人工細胞の作り方を研究していました。

 人工細胞をやると次は人工の組織を作りたくなってきて、今度はティッシュエンジニアリングを勉強し出しました。ティッシュエンジニアリングでつくったいろんな組織を、機械と組み合わせて動かせるようになってきたんです。

たとえば、ひとつひとつバラバラな骨格筋の細胞をある方法で増やして、鋳型の中に入れると骨格筋の筋組織が出来上がるんです。それを3Dプリンターで作った指の関節のような構造体の左右にくっつけて、電気刺激を送ると筋肉が収縮して動くんです。

 世界で初めて、細胞から培養して作った骨格筋をロボットの筋肉として用いたという研究を、2018年に発表しました。

 これは再現性よく同じシステムをたくさんつくることができる手法でもあります。

3次元の組織を再生医療や創薬に利用する

 現在は、ティッシュエンジニアリングを使って3次元組織をつくるというところが私達の面白いところです。三次元組織を作れると何ができるかというと、もちろん組織を体外で作って体の中に移植すると、いわゆる移植医療やセルセラピー、再生医療といった分野に使えるでしょう。

 また、小さなチップの中に三次元で作った細胞を入れると、チップ自体が組織の生体反応を模倣してくれるリアクターとして働くんですね。現在、薬を作ったときにその薬がヒトに効くかどうかは、マウスや大型の動物から始まって、最終的にはヒトでの試験を行うんですが、この過程には様々な課題があります。たとえば、実験コストに加えて、動物実験でうまくいってもヒトでうまくいかないことは多々ありますし、そもそも動物実験に対する倫理的な問題もあります。そこで、動物実験をやらずにヒトでの実験ができれば一番いいですが、薬作ったので飲んでみてくださいというわけにはいかないですよね。そういうときのドラッグテスティング用の検査チップとしても応用できるだろうと考えています。私達の研究室では、Organ on a chipやTissue on a chip, Microphysiological system(MPS)と呼んでいます。

 ほかにも基礎生物学のツールとして使えると思います。通常は二次元で細胞を培養していますが、実際私達の体は三次元なので、三次元にしたほうが体内の動きを模擬できるだろうと。そのため、例えば三次元組織内での細胞の動きをみるためのツールとして使えるだろうと考えています。

以上のような、生命科学に応用できるようなモノづくりができるだろう、というのが3次元組織をつくっている一番の理由です。

ひとつの技術を様々なものに応用する

 私たち工学者はモノを作ったら、なにか一つのためにその技術を応用するという考えはあまりなくて、様々な分野に応用できる「汎用技術」を作っているんだという立ち位置で考えることが多いんです。

 そのため、ライフサイエンスへ応用できるだけではなくて、もう少し工業寄りの応用を考えてみると、例えば三次元で犬の鼻のような組織を作ったら、犬いらずになるわけですよ。犬の鼻は、がれきに埋まっている人の匂いを感知したり、麻薬を嗅ぎ分けたり、爆発物を見つけたり、と様々なところで活躍しているんです。彼らの嗅覚は非常にすごくて重要だけど、集中力が15分~1時間くらいで切れてしまうと言われているんです。そのため、24時間働くことができる「犬の鼻センサー」のようなものを三次元で構築できるのではないかと考えました。それがバイオハイブリッドセンサーと呼んでいるものです。私達の研究室では、実際は犬ではなく、昆虫の嗅覚受容体を使って汗の匂いを嗅ぎ分けるセンサーを作っているんです。これが工業面への応用の一つです。

 もう一つは、私達の研究室ではヒトやマウス由来細胞からの筋肉(筋組織)を作っているんですが、ウシ由来の細胞から筋肉のような三次元組織を作ることができれば食べれますよね。このようにウシを殺さずに、体外で培養して、筋肉のような組織として売り出す、培養肉というものにも着手しています。

スマートフォンから毛が生える!?

 私はもともとロボットが好きだったので、最終的にはロボットとバイオテクノロジーを結びつけたい。今のロボットの動きや機能はどんどん人間に近づいていますが、例えばロボットには嗅覚センサーがなかったりするので、それを細胞でつくってあげようという考えもあります。

 それにそもそもロボットか、人か、というのは見た目ですぐわかってしまいますよね。遠目で見るとすぐにはわからないロボットもありますが、近くで見るとやはり人間ではないとわかるんですよ。どうしてかというと素材がゴムだったりするからですよね。そこで私がやりたいのは、ロボットをきれいに生きた皮膚組織で覆いたいんです。ヒトから取ってきた皮膚ではなく、ゼロから培養した皮膚でやりたい!という学生がいて今、取り組んでいます。

 ロボットを皮膚で覆うことによって、人間とロボットの境界のようなものがどんどん変わるんじゃないかと思うんです。例えば、スマートフォンを培養した皮膚で覆ったとするじゃないですか。皮膚なのでもしかしたら毛が生えてくるかもしれない、そしたら毎日剃ってあげないと電話ができないようなスマートフォンになったら、世話のかかる機械ができるわけですね(それが、かわいいと思うかはわからないですけど)。

 今まで私達が見てきた機械と皮膚を覆った機械というのは、少し関係が変わってくるのではないかと私は思っています。それが社会で何の役に立つかというのはまだわからないですが、何かしら社会の価値観に影響を与えるかもしれないと思っています。

 価値観、つまり人間と機械の関係とか考えというものがどんどん変わるような時代が、10年20年後にはあるんじゃないか、という思いで取り組んでいます。どんどん生物と機械を融合させていく、という研究に取り組んでいる状況ですね。

研究の原動力はアイディアが生まれる瞬間に立ち会えること

 長年の課題があって、その課題がひょんなところから解決するかもしれないというアイディアが生まれた瞬間に立ち会えることが、私の研究の原動力になっています。

 大学の教員になると研究以外の業務もやらないといけなくなり、だんだん研究の現場にいられる時間が少なくなってくるんです。アドミニストレーションなどに時間がとられると、なんのためにこの仕事をしているのかと疑問に思うこともあるのですが、研究室に戻って、学生や研究員とブレインストーミングしているときに、世界を驚かせるアイディアがでたりすると、やっぱりこの仕事はやめられないなと思ってしまいます。そんな貴重な瞬間に立ち会えることができる限りは、どんなにアドミニストレーションが忙しくてもがんばれます。

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