【特別講義5】NK細胞の発見(1/2)
細胞培養 特別講義第5回は、以前よりご講義いただいております順天堂大学の奥村先生です。
■講師紹介ページ:順天堂大学 奥村 康先生
免疫系で最も早い段階からはたらき、自己免疫に重要な役割を担うことが知られているNatural Killer (NK) 細胞は、どのように発見されたのでしょうか。今回は、先生が米国へ留学されたときに感じたことや、そこで出会った予期せぬ免疫反応についてご寄稿いただきました。前後編あわせてお楽しみください (後編は来週掲載予定です)。
“NK細胞の発見(1/2)”
奥村 康 先生
順天堂大学医学部免疫学 特任教授
私は大学院を卒業し、スタンフォード大学へ留学する時、故あってまずはじめにNIH(National Institute of Health)に留学することになりました。なにせ初めての米国生活です。最近の留学生達は随分気軽に行かれるようですが、私の場合はほとんど戦地にでも赴くような気持でした。母が集めた神仏混合のお守りを腹に巻き付け、米国最大の国立医学研究機関であるNIHに赴いたのであります。
巨大な世界一の研究所では、とにかく見るもの聞くものみな別世界のようでした。チョイとひねれば蒸留水の出る実験台の流し、日本ではガラスのピペットでしたが使い放題のディスポーザブルのピペット等、消費文化の最たるものでした。この巨大なNIHも研究者が多いためか、研究室は異常に混みあっていました。NIHでは多くの日本人が働いていました。その中の一人で、腫瘍免疫学の研究者であり、今でも兄弟のように親しくお付き合いをさせてもらっている仙道先生(前山形大学学長)とは当時から私と同様、頭髪に恵まれないためか何となく気があったせいで毎晩大酒を呑みながらいろいろ議論をしました。
当時、仙道先生は癌細胞に対する免疫反応の特異性を調べておられ、いろいろな種類の異なる癌細胞を動物へ注射して、その動物のTリンパ球が、注射した癌細胞を殺すようになるか、また殺すとすれば、注射されなかった他の種類の癌細胞をも殺すのか否かといった、いわゆるキラーT細胞の癌抗原の認識の仕方、すなわち特異性を調べておられました。その時、先入観のある普通の研究者なら見落としてしまうような予期せぬ現象を見つけられ、毎晩その解釈をいかにすべきかとの悩みを聞かされました。
それは癌細胞を注射しない、いわゆる実験のコントロールとして調べたマウスのリンパ球でも、癌細胞と混ぜるとある程度癌細胞を殺してしまう、という単純な現象でした。私のその頃の頭では、生体の免疫系すなわちリンパ球は、すべての抗原に特異的に反応するべきで、何でもかんでも反応するような現象は、免疫反応とはとても考え難く、またそう呼んでもらいたくなかったのです。
当然、仙道先生もこの点が悩みの種で、免疫もしないリンパ球のくせに、癌細胞なら何でも反応する現象を何と考えたらよいものかと、毎晩飲みながら相談を受けました。私は、「きっと先生の実験のやり方が下手くそで、そんな現象が起きるのだろう」とかなんとかいい加減な応答しかできず、だんだん酔いが回ってくると、仙道先生に怒鳴りつけられる始末でありました。
しかし、この時に仙道先生の真摯な研究者としての一面を見せつけられ、後にこの経験は私達の研究を進めるのにも大いに役立っています。
<後編はこちら>
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