【三重大学大学院医学研究科・江口先生】消化器系癌のメカニズム解明とEVを利用した早期診断を目指す
ユーザーインタビュー:Abwiz Bio抗体(anti-PLXDC2)
Abwiz Bio社の組換えウサギモノクローナル抗体は、高い親和性と高感度、高特異度が特徴です。今回は、抗 PLXDC2 ウサギモノクローナル抗体をお使いになっている江口暁子特任准教授にお話を伺いました。江口先生は、三重大学医学部の消化器内科で、消化器系の疾患や癌の基礎研究をされております。
初めに先生のご研究を簡単に教えていただけますでしょうか。
慢性肝疾患、特にアルコール性や非アルコール性脂肪性肝炎(nonalcoholic steatohepatitis: NASH)の病態疾患メカニズムの解明に取り組んでいます。他にも膵癌や大腸癌など消化器系癌のバイオマーカーの探索研究もおこなっております。 近年、アルコール歴や他の肝疾患原因の有無を問わず、肥満や糖尿病などの代謝障害をもつ脂肪肝を診断するMetabolic associated fatty liver disease(MAFLD)という定義が提唱されました。脂肪組織や肝臓など他臓器からの状態が全身に反映されることから、それぞれの障害細胞が出すサインを把握することを目指し、脂肪細胞や肝細胞が放出する細胞外小胞(Extracellular Vesicles; EV)に着目した研究をおこなっています(図1)。
EVは、エクソソームやマイクロパーティクル等を含みますが、その内部に封入されているタンパク質や核酸等が病態情報体となり、細胞間コミュニケーターとして重要な役割を果たしていることが知られています。EV成分の役割を解明するために、培養細胞を用いた検討をおこなっていますが、可能な限り初代培養細胞を用いることを心がけており、そのために多くの共同研究者の先生のお力をお借りしています。EV成分の機能を詳細に解析することで、病態進展メカニズムの解明や早期診断が可能なることが期待されています。
また、これまで大学院とポスドク時で、細胞への遺伝子やタンパク質の導入系の技術開発に関わってきました。開発に関わった技術には、膜融合リポソーム(センダイウイルスとリポソームの融合)による細胞内へのタンパク質導入、膜融合ペプチド提示したラムダファージによる細胞内への遺伝子導入、膜融合ペプチドと二本鎖RNA結合タンパク質の融合タンパク質によるsiRNAの導入などがあります。様々な生体分子を細胞内に導入する基盤技術を培養細胞や疾患動物モデルにも応用し、慢性肝疾患の疾患メカニズムの理解や新規治療標的や治療薬の探索もおこなっています。これら基礎研究を臨床研究へと応用し、医療現場に貢献できる研究を目指しています。
今回は、なぜPLXDC2に注目されたのでしょうか。
2018年に癌組織でPLXDC2(Plexin domain containing 2)が高発現しているというウエスタンブロッティングの先行論文がありましたが、癌組織の免疫染色の解析データの報告がなく、最初は、どうなっているのだろうという好奇心から検討してみました。 PLXDC2は、別名TEM7R(Tumor Endothelial Marker 7 related)といわれることもあり、肝癌の病理組織では、腫瘍病理学教室の協力も得て、腫瘍血管内皮細胞が染色され管腔構造の染色像も確認できました。また、肝細胞癌の肝細胞にもPLXDC2が発現することを近年の報告と同様に見出し、論文発表しました(1)。肝癌の再発率は50%と高く、10年生存率も高くはありません。C型肝炎ウイルスの治療薬ができ、ウイルスを駆除できる時代になりましたが、駆除後に肝癌を発症する場合もあり、そのメカニズムの全容は解明されていません。PLXDC2は、癌の進展や発現部位を理解する上で重要なターゲット分子のひとつと考えております(図2)。
ウサギモノクローナル抗体を選んでいただいたのはなぜですか。
抗体は、免疫細胞染色、ウエスタンブロッティング、フローサイトメトリー等の抗体を用いる一連の基礎的な解析手法に使用しています。また、マウスやヒト臨床サンプルの免疫組織染色や血清を用いたELISA等にも使用しています。今回ウサギモノクローナル抗体を選択したのは、これまでの様々な実験結果から、特異性や感度が高いものがウサギモノクローナル抗体であったためです。 今回の実験でも、特異性や感度が高く、ウサギモノクローナル抗体の有用性を実感しました。
最近では、再生医療を用いた肝疾患の治療法の開発なども盛んにおこなわれていますが、どのようにお考えですか。
肝移植が難しい本邦において、肝疾患に対する治療方法を1つでも多く確立することは重要だと思います。再生医療に用いる材料の安定性や品質管理の維持等、克服すべき課題はありますが、再生医療の将来に期待しています。
今後の展望を教えて下さい。
消化器系の癌として、肝癌以外にも大腸癌(2)、胃がん、膵癌等も研究対象になります。消化器以外の癌での発現や普遍性と相違点など、マウスモデルの発現などの解析をすすめ、癌の理解と早期診断や治療に成果をむすびつけられればと考えております。ウサギモノクローナル抗体のポテンシャルは、まだまだあるように思います。これまでマウスモノクローナル抗体では作成が困難であったターゲットや低分子に対する抗体などバイオマーカーの検出やコンセプトの検証にも抗体を活用していければと思っております。
(参照論文)
- Yamamoto N, Eguchi A, Hirokawa Y, Ogura S, Sugimoto K, Iwasa M, Watanabe M, Takei Y.Expression Pattern of Plexin Domain Containing 2 in Human Hepatocellular Carcinoma. Monoclon Antib Immunodiagn Immunother. 2020 Apr;39(2):57-60. doi: 10.1089/mab.2019.0050.
- Hamada Y, Eguchi A, Tanaka K, Katsurahara M, Horiki N, Nakamura M, Tenpaku M, Iwasa M, Ichishi M, Watanabe M, Takei Y. Plexin domain containing protein 2 is more expressed within the invasive area of human colorectal cancer tissues.Hum Cell. 2021 Sep;34(5):1580-1583. doi: 10.1007/s13577-021-00570-8.
【御名前】江口 暁子(えぐち あきこ)先生
【御所属】三重大学大学院医学系研究科 消化器内科 特任准教授
【ご経歴】大阪大学大学院医学系研究科修士課程・博士課程修了後、JST(現JSPS)特別研究員として
非ウイルスベクター(膜融合リポソームや細胞透 過性ペプチドを利用したλファージディスプレイ)
を用いた遺伝子・タンパク質導入技術の開発に従事する。
2005年よりカリフォルニア大学 サンディエゴ校(UCSD)Steven Dowdy教授のもとで
新規siRNAデリバリー法の開発に成功する。
’11年よりUCSDのAriel Feldstein教授のもとで、慢性肝疾患の治療法の開発や
発症機序の解明に取り組み、細胞外小胞が慢性肝疾患の病態進行に寄与することを明らかにする。
’16年から現職
【研究テーマ】消化器病疾患の病態進展メカニズムの解明とバイオマーカーの開発
PLXDC2とは?
細胞表面1回膜貫通タンパク質であるPlexin domain containing 2 (PLXDC2)は、造血幹細胞、神経幹細胞、多能性幹細胞およびがん細胞を含む多くの組織で発現している。PLXDC2 は、神経細胞の成長、幹細胞の発達、血管新生およびがん細胞の蔵相において重要な役割を果たしている。PLXDC2は、脳卒中患者の末梢血、ヘリコバクター ピロリに曝露されたマウス骨髄由来マクロファージ で発現上昇が報告されている。アカゲザルラジノウイルス(RRV)の受容体としての役割やアルツハイマー病に関わるプロテアーゼ BACE1(β-Site APP Cleaving Enzyme)によって、アミロイド前駆体タンパク質等と共に細胞外ドメインが切断されることも知られている。
関連リンク: PLXDC2抗体
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