【主席研究員部屋7】 水は培地の生命です

「水は培地の生命です」

最近は大型台風なども含めて記録に残るほど水害が頻発しており、被害に遭われた方はご苦労をされているのだろうと心を痛めています。台風ではないのですが、去年は私達の研究所のある茨城地方も集中豪雨に襲われました。最初はまあ大丈夫だろうと気楽に構えて車で帰宅したのですが、道路はすでにかなり冠水しており、自宅に帰り着くのにほんとうに苦労しました。水をなめたためとひどい目に遭ってしまったんです。


水は御存知の通り、生命を維持するためには欠くべからざる物質です。成人では体重の50〜60%を占めますし、食事がなくても人は2〜3週間生きていくことが可能ですが(個人的には全く自信がありません…、1日分3食も抜いたら生きてゆく気力が無くなりそうです。)、水なしだと数日が限界だと言われています。

そこで今回は培地の成分の中でも99〜98%と最も高い重量の比率を占め、かつ培地、特に無血清培地の性能に大きな影響を与える重要な成分、「水」の話をします。水はとても大事なんですよという話です。

培地の調製に使われる水についてですが、精製度の低い水は培地の水には向きません。特に無血清培地では水の精製度が性能に影響します。血清を添加した培地の場合、精製度の低い水でもあまり性能差は出ないのですが(だからといって水道水は使えません)、無血清培地にした場合、精製度の低い水を使うと増殖率が低下したりします。血清蛋白質には毒性の中和効果があることが知られていますが、逆に言えば、この様な蛋白質が含まれない培地、例えば無血清培地では水の精製度がとても重要なのです。そのため、培地用として精製水の調製法を複数準備しており、用途や目的によって使い分けています。

水の良し悪しが培地の性能を左右する。水は培地の生命なんですよ。

私の学生時代(30うん年前ですねえ)にはイオン交換水を2回蒸留した再蒸留水を使っていました。再蒸留水の製造は学生にとってかなりの手間で、20kg以上の重いイオン交換水のタンクを棚の上に上げて少し栓を開き、ゆっくりヒーターを組み込んだガラス製の蒸留装置に流し込んで、まず一回蒸留する。その後、蒸留した水をもう一度棚に持ち上げて蒸留装置に繋いだ後に、再度蒸留するという作業でした。特に蒸留水が溜まったタンクを頻繁に上げたり下げたりする必要があるというのも問題の一つでした。それだけではなく、二回も蒸留するので、時間当りに採水できる量はあまり多くないということも問題でした。現在では再蒸留法を用いないでも純度の高い精製水が大量に作れる装置が販売されており、そのような問題は無くなくなっています。

私達が学生時代に使っていたガラス製の蒸留水製造装置は逆さにしたクラゲかタコに形が似ていたので、仲間内で逆さ火星人と呼ばれていましたが、現在ではこの様な蒸留水製造装置はあまり見かけなくなっており、少し寂しい気分ではあります。と言っても、今更学生時代のような重労働をしたいのかと聞かれれば、嫌だとは言いそうですが。もっとも、社内(と家内…)から少しは運動したらと言う声が聞こえていますが、できるだけ聞こえないふりをしています。

さて、一般的には超純水と呼ばれる精製水が培地調製に使われることが多いです。超純水は日本薬局方の規格「医薬品等の試験に用いる水」(第十七改正日本薬局方 P2459 G8)、米国試験材料協会のバイオメディカルグレード(ASTM D 5196-06)、用水・排水の試験に用いる水のA4以上(JIS K 0557:1998)等の規格がほぼ該当します。おおまかには比抵抗値(電気抵抗率)が18MΩ・cm以上、更には全有機炭素(TOC、Total Organic Carbon)が50 ppb以下の状態まで精製された精製水を指しています。精製度の高い水はハングリーウォーターとも呼ばれており、容器の残留物や空気中の塵などを取り込んであっという間に規格値から外れてしまうんです。以前確認したところ、採取時はTOCが数ppbだったのですが、容器に入れて1時間程度放置していたら10倍以上に跳ね上がっていました。精製水は採取してから出来るだけ早く使わないとだめなんですよね。

最後に水にかかわる古傷の昔話なんぞを少し…
ある朝、私についていた学部学生が青い顔をして夜中に逆さ火星人が大爆発したと言うのです。びっくりして何があったのか尋ねた処、深夜に蒸留水製造装置が破裂して、辺り一面ひどいことになったとのこと。手を抜きたがったその学生が流れ込むイオン交換水の量を加減し、ヒーター温度を下げれば一晩放置しても良いだろうと考えたことが破裂した原因でした。

何が起こったかというと、採取していた再蒸留水が液体瓶の上部まで溜まりきったために、蒸留水取り出し口が液面で塞がれたこと。そこに供給側のイオン交換水が空になったため、流入弁が閉じた状態でヒーターが停止したこと。そのため、加熱している蒸留槽内に冷えた蒸留水が急激に逆流した結果、ガラス製の蒸留槽が破裂したようでした。割れた破片の一部は私の使っていた古い実験机に刺さっているという恐ろしい状況でした。もしその時にそこにいたらと考えると冷や汗が止まりません。その後、私とその迂闊な学生がまとめて教授にたっぷり、それはもうたっぷりと説教されたことは良い思い出(?)となっています。

水をなめると本当にひどい目に遭います…



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