【特別講義7】 心の動きと免疫
新聞やテレビなどで「病は気から」という言葉を目にすることがありますが、今回の特別講義では、「心の動きと免疫機能の関係」について順天堂大学の奥村先生よりご寄稿いただきました。
第5,6回の主役でありましたNK細胞が、私達の心の動きによって影響を受けるという興味深いトピックスをご提供いただきました。今回もどうぞお楽しみください。
■ 講師紹介ページ:順天堂大学 奥村康先生
“心の動きと免疫”
奥村 康 先生
順天堂大学アトピー疾患研究センター長
心の動きが体に大きく影響を与える事実は、昔から沢山知られております。しかしその詳しい仕組みはほとんど判っておりません。癌の末期を宣告された方でもフランスのルルドの泉に願をかけに行くと1億人のうち何十名か助かるということも知られております。鍼もお灸も百人が百人効くはずなく、効くのは何十人に一人ですがその一人のために3000年以上も昔より受け継がれ今に至っております。
昔、朝日新聞に載った“フィンランド症候群”という一種の臨床実験が参考になります。フィンランドの健康寿命を長くする事を目的に、健康管理の重要性を国民に知らせるべく行われた臨床実験です。40歳から45歳の男性を職業、家庭環境等を大体統一し600名ずつで2つのグループに分けます。一方のグループは徹底的に厳しく健康管理に介入し、タバコ、酒はもちろん控えさせ毎年2度はドッグで体を調べるといった健康維持に介入された人達です。もうひとつのグループはその逆で、酒もタバコも無制限、定期的な健康検査もなし、といった自由な人達です。15年フォローして死亡した方の多かったのは意に反して圧倒的に健康維持に介入したグループだったのです。
その頃の推察ですがコレステロール、中性脂肪を低く管理したことが是か非か、またタバコも酒も絶つといったストイックな生活を強いたためストレスが溜ってきっと免疫が落ちたのではないか。というようなことが話題になりました。今となりますとその2つともそんなに的外れな考察ではないということです。コレステロール、中性脂肪を低くしても長生き出来るというきちんとしたデータはないようです。今のデータから言えるのはある程度高くないと長生きできないことです。不思議に低い方は発癌率や感染症になる確率が高いのです。薬で下げますと“鬱”になることも判っています。健康介入群の中の死亡者の中には自殺が何例か含まれてます。コレステロールも中性脂肪も体にとって極めて大切なもので強い血管や免疫を高く保つのに役立ってます。
私のひとつの専門分野にNatural Killer細胞の働きの研究があります。前回にも書きましたが、私は米国より帰国後このNatural Killer(NK)細胞を同定するのに成功し、加えてNKの無い動物をつくることが出来ました。その動物は発癌率がやたらと高いのとウィルスに極めて弱くバタバタと死ぬのです。NKの重要性は、その後のヒトでも解明されNKさえ高くしておけば長生きで癌にならず感染にも強いことが分かりました。ですから長生きの方はNKが強く弱い人は早死にするのです。このNKは面白いことに心の動きの影響を強く受けるのです。少しでも淋しいような受動的なストレスで低くなってしまいます。例えば、若い方はNKは強いのですが学校の試験のようなストレスで下がります。ですから風邪を引くのは大体試験の時です。
もっと激しい悲しい実験的なストレスは、子育てをしてる親から子を取り上げた時です。NKは急に下がって上がってきません。心の動きを一番反映するのがNKで、ある程度定量することも出来、数値で表せますから皆様の興味を引いてます。逆に笑うだけでNKは見事に上がります。楽しい友人、家族と笑いの絶えない方達が一番NKが高いのです。今世紀の心の医学のトピックスのひとつはこのNKの研究かもしれません。
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