【主席研究員部屋5】 人の体ってすごいんです(前編)

熊本地震で被害を受けられた皆様へ

まずは熊本地震で被害を受けられている皆様へ、心よりお見舞いを申し上げますとともに、今尚強い余震も続いているようですが、更なる被害を受けること無く、より早い復興を果たされるよう心よりお祈り申し上げます。

去る2011年の3月11日、茨城県の北端にある私達の工場も東日本大震災では大きな被害を受けました。元に戻すには長い時間と多大な努力が必要でした。そんな時にユーザー様も含めて様々な方からありがたい励ましや支援を頂きました。私達にとって、心の支えとなった言葉でありますが、この場を借りて、被災され、復興に尽力されている皆様に贈りたいと思います。

「がんばれ!! 熊本!、大分!」

□ 粉物の話 □

さて、今回は本業の培地生産系の「日本オタクばなし」から、粉物(こなもの)作りの話をいたしましょう。内輪では粉物と呼んでおりますが、お好み焼きやたこ焼きのことではなくて、粉末培地のことです(江戸前の産なもので、もんじゃ焼が好きです。モチと明太子を入れたもんじゃは冷えたビールによく合います。)。使われている方はよくご存知とは思いますが、細胞培養用培地の形態としては凡そ液体製品と粉末製品の二種類に別けられます。凡そと言っているのは、粘性の非常に高いコロニー用培地というのがあるからで、ほぼ水飴に近いネバネバデロデロ状態を液体と呼ぶにはやや抵抗があります。

研究用途の培地では、すぐに使える液体培地がほぼ主流になっています。私的には有効期間が短いことや、成分の改変が難しいことから液体より粉物の方が好きなんです。というか、私が培地を関わり始めた頃は、基礎培地に何かしら工夫を加えないと培養できない細胞が殆どであったため、培地は基礎培地を溶解して、細胞の要求成分を更に加えて作るものだというのが普通の感覚でした。しかしまあ、最近は様々な細胞向けのReady-to-useの液体培地が各社から出てきたため、培地組成に工夫を加えないと培養できないといったこともなくなってきました。使う側としても購入してすぐに使える培地がいい、培地の調整や工夫に時間を取られたくないというのは理解できます。まあ世の中の流れですな。

それに対して、産業用途、例えばバイオ医薬品生産用などでは粉末培地が主流かと思います。考えてみてください。バイオ医薬品生産用の大型培養タンクは最大で2万Lぐらいまでの容積があります。これをボトル入りの液体培地なんかで満たそうとしたら、それはもうとんでもない事になります。フタを開けるのだけでもエネルギーが尽きてしまいます。昔々、サンプル用に500本ぐらい小分けチューブの液体培地を手作りしたら、小分け分注のための容器の開封で親指と人差し指の皮が剥けてしまったことがあります。たいそう痛かったです。そんなことをユーザーさんにしていただく訳にはいきません。最近では100L~1,000L容量の液体培地用バッグもあるようですが、かなりお高いです。手っ取り早くはタンクローリー車を使うという発想もありました。もっともそんなことをしたら無菌性が保証できません。運んでる最中にコンタミしますね。

それだけじゃなくて、水ってのはとてつもなく重いので、輸送にコストが掛かってしまいます。例えば国際間の取引で、1万L分、約10tの液体培地を航空輸送なんてことになったら、輸送費のほうが培地の価格を超えることになりかねません。産業市場のコスト優先の考え方として余計なランニングコストは許容していただけませんので液体培地の航空輸送はかなり難しいでしょうね。船便という手段もありますが、通関まで含めると輸送に相当の期間がかかります。有効期間の短い液体培地では使用可能な期間が短くなるので使い勝手が悪くなります。また、その間の冷蔵の手間まで含めて、やはりそれなりのコストは掛ってしまいます。

□ 粉物の作り方は? □

それでは、本日のオタクッキング、粉物の作り方です。さてさて、昔、どなたかに培地なんてのは成分をミキサーに入れてが~と混ぜればなんとかなるんじゃないの? と言われたことがありますが、そんな簡単には培地は混ざりません。なぜかというと

• 培地の成分数は少ないもので30種類ぐらい、多いものでは80種類を超えています。
• 比重も軽いもので0.6、重いもので3.5ぐらいまであります。
• 微量成分と大量の成分の量比は、製品によって違いますが、MEMなどで1対8万程度、トレースエレメントを多種含む無血清培地とかでは1対10億の差が有るものがあります。1対10億の量比ということは、1tの粉末培地あたりに微量成分は約1mg、耳かき1杯分しか入っていないということですね。

こんなもんがほんとに混ざるのか?という世界です。昔、混合機のメーカーさんに前述の話をして、なんとか一気にがーと混ぜられる機械がないものかと聞いたことがありますが、「量比が1:100を超えると十分に混ざりませんがね」と言われてしまいました。

それでは、混ざらないと言われたしまったものどうやって混ぜているのかという話です。ノウハウの領域に属しているので、具体的にはお教えできませんが(もったいぶるなと言わないでくださいね。この組合せを見つけるのに試行錯誤を繰り返してきていますので、大層な時間とお金が掛かってるんです。)、物性や、量比的に近い物同士を組み合わせて粉砕と混合を行う工程を幾つも組み合わせて、微量な成分を含めてある程度マクロ的に粒径や組成が均一な粉末にしていくというテクです。

粉末培地の原料の粉砕にはミル(mill)という機械を使います。元々は石臼などを指す言葉であったようですが、摩擦や圧縮の物理的なエネルギーによって物質を粉砕し粒径を揃える機械です。ミルには、ボールミル、ピンミル、ハンマーミル、ジェットミルなど様々なものがあります。粉砕する原理がそれぞれ異なり、使用目的や必要とされる粒径により各々のミルが選択されます。このたくさんあるミルの中でもかなり昔からあり、私が好きなものがボールミルです。

これは、具体的には大きな筒(両端の塞がった巨大な茶筒を想像してもらえればOK)の中に原料とミルボール(粉砕ボールとも呼ばれる)という焼き物やら鉄やらの玉を混ぜて投入し、蓋をしっかり閉めてから、円筒軸にそってが~らんこ、が~らんことぶん回す機械です。ボールミルの良い点は混合と粉砕が同時に行えることです。原料はミルボールと内壁やボールとボール間の摩砕力、ボールが転がり落ちる時の衝撃力で細かく粉砕されます。同時にボールと原料との回転によって混合攪拌されます。つまり、ボールミルは粉砕機であり、かつ混合機なんです。

前振りの話が長くなってしまったので、続きは次回、すぐに出るので待っててくださいね。

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